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誇りはどこへ、

2015.9.1
執筆者:恵原 義之(エバラヨシユキ)

 日本での原子力発電再稼働の第一号が鹿児島県下の九州電力川内原発であったことを出身者の一人として感じるところを記したい。

 原子力発電所を再稼働させるには原子力規制委員会の安全基準をクリアしていることが条件だが、それには地元住民の賛意が求められる。

 福島の東京電力第一発電所の事故以来四年を経て、わが国の原子力発電が再会したのは川内原発1号機で8月11日のことであった。その後もトラブルが発生しているが、ここにきてフル稼働に到ったらしい。ここに至るにはいくつかの段階を注目していたが、何といっても当該原発を抱える地元が賛成したことが筆者には大きなできことであった。すなわち、薩摩川内市議会がこれを承認し、県議会がこれを承認し、知事が承認したわけである。世論調査で住民の多数意見が反対であったとしても、議会制民主主義では地元の賛同を手続的には得たことになる。住民(国民)の意見と議会(国会)の意見が逆転する傾向が近年は顕著である。このことは他日書いてみたい。

 原発の推進派にしてみれば、とにかく原発を一つでも再稼働させて、国民の反発を鎮静化せねばならない、と考えたことであろう。そのために議会の賛同を得やすい地域に的を絞ったと考えるのは管見であろうか。そうだとしたら政治的に保守的体質の強い地域が選ばれる可能性は高い。

 

 原発は施設自体が巨大であり、稼働を止めていてもその維持には巨額の費用がかかる。廃棄するにも長い時間と費用が伴う。それらは電気料金に上乗せされることになる。だから早く再開しないとますます料金を上げざるを得ないという理屈がまかり通っている。しかし原発を再開して電気料金が安くなるというにはならない。このことは多くの専門家が指摘している通りである。

 原発の発電コストは一番安い、との言説が為されているが、これは稼働している状態での発電費用のみを取りだして他と比較しているのであり、放射性廃棄物の処理費用は排除させている。そもそも、最終処分の方法すらわかっておらず、現在中間貯蔵施設庫の仮施設の建設途中で巨大な費用が発生しているであって、それらはすべて国庫で、すなわち税金で負担されている。これを電気料金に上乗せしたら圧倒的に高い料金となることは自明である。また、環境に与える負荷が水力、火力ほかの発電方式に比べて低い、という説明がなされるが、ほとんどの原発では海水を引き込み、原子炉を冷却して後に海に戻している。その時、海に排出される熱量は計り知れない。

 

 

 鹿児島市のホームページを拝見すると「明治維新150年カウントダウン事業」の紹介があり、関連する映像なども紹介されている。かの幕末維新に最も大きな力を発揮したのが薩摩藩であることは県民も県外に住む出身者も「誇り」に感じてきたことの一つである。1968(昭和43)年に行われた「維新百年」事業を今の若い人たちは知らないが、筆者のような元来保守的な男にはそれなりに社会的に広がりを持ち、その意義が感じ取られたものであった。

 県下では、この県民が先導的役割を果たした「明治維新」の150年を直前にして原発再開という全国に大きな影響を与えることになる事業が始まったわけである。これは誇るべき事なのか、恥じ入るべきなのか、または止むを得ざる苦渋の決断として受容すべきものなのか。

 神奈川県で暮らしている筆者に親しい友人が「やはり遠いところから始めるんですね」と語った言葉が印象的だ。報道されるところ、再開第一号が川内原発で、二番目に稼働するのは四国電力伊方原発3号機となるようである。二つに共通しているのは中央から遠く離れており、万一事故が発生しても国家の中枢機能にはさほど影響がでないと推測される点である。共に首都圏、京阪神、中京の産業ベルトからかなり離れている。ほかに原子力規制委員会の安全基準をクリアしているのは関西電力高浜原発3号機、4号機であるが、こちらは福井地裁が運転差し止めの仮処分を出しており再開のめどが立っていない。

 幕末維新の世では倒幕を掲げ、また新しく動き始めた明治政府に対しても、その政策の誤謬を指摘しては少なからぬ郷土の先輩たちが反旗を翻した。理不尽な状況に異を唱えることの先鋒に立っていた県がいまや中央に物を言えぬ存在になっている感がある。あの「誇り」はどこへ行ったのだろうか。

 報道によれば、川内原発の避難計画は出来たが、避難住民の受け入れ態勢の協議などはほとんどなされていないという。先般の口之永良部島の噴火は全島民の避難をもたらし、桜島も噴火により一時的に避難する事態となったが、諏訪瀬島含め活火山を多く抱える自治体として避難計画が政策にどのように反映されていくのだろうか。

 

 

 現在進行中の、2020東京オリンピック・パラリンピックの競技場問題、エンブレム問題について指摘されていることだが、権力者が進める事業についての有識者委員会や検討委員会、また第三者委員会やコンペティションの審査員はその大半が身内やその知り合い、仲間内で固めていることが多い。原子力規制委員会はその最たるもので、どれほど中立性を保っているかについては大いに疑問がある。鹿児島県民の保守的体質が原発の再稼働に利用されたのだとしたら残念なことである。

恵原 義之(エバラヨシユキ)

恵原 義之(エバラヨシユキ)

1945年鹿児島県奄美市生まれ。大阪外国語大学(現、大阪大学外国語学部)卒、早稲大学アジア太平洋センタービジネススクール修了、
1971年株式会社電通入社。営業企画局企画推進部長、SP局海外事業部長、国際事業局次長、インド事務所長等の業務に従事。現在、同社社友。
関東学院大学人間環境学部にて非常勤講師(メディア論、南アジア論、等)。法政大学沖縄文化研究所国内研究員、日本島嶼学会、奄美郷土研究会にて小論を発表している。
著書に「インド・パースベクティヴ」(ボイジャー社2008)、「カンボジア号幻影」(新風舎2005)、「砂マンダラ」(海風社2007)等。

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