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時論・創論 インフラ

路面電車を活かすアイデア ~ヨーロッパの事例から~(前編)

2015.8.5
執筆者:野口 誠(ノグチマコト)

 

はじめに

 数年前、ヨーロッパのいくつかの都市を訪れる機会があった。それらの多くで路面電車が導入されていたのだが、その敷設形態がじつに多様で、「広い道路の中央部を路面電車が走行する」という“常識”が頭に染みついていた私にはとても新鮮であった。

 都市交通のなかで、路面電車は優れた公共交通機関といわれる。バスに比べ路線や電停(電車停留所)が分かりやすいうえ、ラッシュ時には渋滞の影響を受けにくい。沿線で排気ガスを出さないという環境面の利点もある。駅に入ってからホームに到達するまでの移動距離が長い地下鉄より手軽だし建設コストも安価だ。まちの風景に独特の個性やシンボル性を与える効果も大きい。最近、路面電車の導入や延伸が国内各地で検討されているのも、こうしたメリットに注目してのものだろう。

 海外の進んだ事例に学ぶことで、国内の路面電車でもこれらのメリットがいっそう高められ、まちづくりにおける活用の幅も広がるのではないか──。このような問題意識のもと、本稿では、鹿児島の路面電車である「市電」への応用も念頭に置きつつ、ヨーロッパで印象に残った事例*を前編・後篇の2回に分けて紹介したい。今回はその前編である。

*   2007年3~4月にかけて訪れたダブリン(アイルランド)、マンチェスター(イギリス)、リール(フランス)、ルーアン(同)、パリ(同)の事例より。写真はいずれも筆者撮影。

 

1.芝生広場の中を走る路面電車…ダブリン(アイルランド)

写真1-1 芝生広場を走行する路面電車

写真1-1 芝生広場を走行する路面電車

 軌道緑化は、鹿児島をトップランナーとして国内各地に広まりつつあるが、芝生広場の中を路面電車が走るのは国内でも例がないのではないか。写真1-1、1-2はダブリンの例である。道路に並行する細長い芝生広場の中に路面電車の姿が見える。軌道内も緑化されており、広場の緑と調和して都会の一角にゆったりとのどかな雰囲気を創り出していた。

 

 

 

 

〔鹿児島への応用〕

 ウォーターフロント地区・ドルフィンポート前の芝生広場に市電が乗り入れると、ダブリンと似たイメージになりそうだ。この地区には市電延伸構想があるが、県からは「グリーンベルトが大きく削減され緑が少なくなる」等の消極的なコメントが出ていた(県HP『平成25年2月1日定例知事記者会見』より)。芝生広場に市電が乗り入れると、たしかに緑地の一部を軌道に充てる必要があるが、写真1-1、1-2でもわかるように、緑化された軌道と広場とは一体化していて、緑地が奪われる、景観を邪魔するといったマイナスの印象は薄かった。

写真1-2 途中には停留所も設けられている

写真1-2 途中には停留所も設けられている

 むしろプラス面も多い。市電延伸により都心部とウォーターフロント地区とが往来しやすくなるだけでなく、芝生の上を市電で「散歩」しながら車窓越しに桜島や錦江湾を眺めるというのが鹿児島観光の新たな目玉ともなりうる。さらに、「芝生広場を走る路面電車」は国内でも珍しく、軌道緑化のように鹿児島発の先進事例として話題を呼ぶのではないか。こうした点も考慮すれば、市電延伸についてもっと前向きに議論できると思うのだが。

 

 

 

 

2.街の中心広場に路面電車が乗り入れている例…マンチェスター(イギリス)

 イギリスの主要都市・マンチェスター中心部のピカデリー広場には、路面電車が郊外三方面から乗り入れ、広場内の電停で合流している。路線バスが発着するターミナルも隣接し、電車とバスとの乗換えもしやすい(写真2-1)。

写真2-1 広場内の電停とすぐ横に留まる路線バス

写真2-1 広場内の電停とすぐ横に留まる路線バス

 広場では、一般車両の乗り入れは大きく制限される一方、歩行者が往来できる面積は広く(軌道上の多くも歩行可能)、人と路面電車とが共存する空間が広がっていた(写真2-2)。両者の動線が交錯するため安全面の配慮が必要だが、電車は適宜警笛を鳴らしながらスピードを落として運転しており、また路面のあちこちには“LOOK”の表示もあった(写真2-3)。実際に歩いてみたが、電車の接近はちゃんとわかるし、また電車は軌道を外れて近寄ってくる心配がないので、安全面の支障はとくに感じなかった。

 

 

〔鹿児島への応用〕

 鹿児島中央駅前広場のことを考えてみた。ピカデリー広場とは対照的に、面積の多くが広い道路や駐車スペース、バスターミナルなどで占められ、歩行者は広場の端や地下に追いやられていないか。また電停も広場のほぼ中央に位置していて、JR駅や駅ビルなどの主要施設まで距離があるのも気になる。

写真2-2 軌道の上も立派な歩行空間となっていた 

写真2-2 軌道の上も立派な歩行空間となっていた

 広場全体の歩行環境を一気に解決するのは難しいとしても、都市の基幹交通である市電のアクセス改善から着手してはどうか。例えば、市電の軌道をアミュ広場附近まで引き込み電停もそこに移設すれば、市電とJR駅や駅ビルとの移動距離は短くなる。併せて軌道緑化、植栽、街路樹なども活用し、電停の周辺だけでも人と市電が共存するエリアに創りなおす。市電の利便性が高まるだけでなく、この一角の「人に優しい」イメージは鹿児島の代表駅として個性的でふさわしい景観となるだろう。

 

 

写真2-3 路上のあちこちに“LOOK”の文字

写真2-3 路上のあちこちに“LOOK”の文字

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.「トランジットモール」の例…ダブリン,マンチェスター

写真3-1 ダブリンのトランジットモール

写真3-1 ダブリンのトランジットモール

 欧米では、一般車両の通行を制限しつつ公共交通と歩行者を優先する「トランジットモール」と呼ばれる街路が、中心市街地に数多く存在する。写真3-1はダブリンだが、軌道の両側にすぐ歩道が接しており、車道はない。マイカー利用者には不便だが、道路や駐車場など車のための施設の面積を節約できるぶん、街なかは商店やオフィスなどが連続した歩きやすく魅力的な空間となっていた。写真3-2はマンチェスターで、軌道の片側だけが車道(一方通行)となった「セミトランジットモール」と呼ばれる街路である。一定の道路幅員が確保できる場合は、一般車両の利便性も考慮したこの形態を採ることも可能だろう。写真3-3はダブリン市街の小さな橋だが、車道はなく路面電車と歩行者だけに開放されている。「トランジットモール」と同様の事例として興味深かったので、併せて掲載しておく。

 

〔鹿児島への応用〕

 さきにウォーターフロント地区に「芝生広場を走行する市電」を提案したが、代わりにトランジットモールを導入することも考えられる。対象箇所は、ドルフィンポートと芝生広場との間の上下2車線の道路である。200mほどと短いうえ交通量も少なく、途中に駐車場の出入口もないので、一般車両の通行を制限しても影響は小さいと思われる。芝生広場を削らずに済むし、軌道を緑化すれば隣接する芝生広場と繋がって緑地が広がった印象となる。

写真3-2 マンチェスターのセミトランジットモール

写真3-2 マンチェスターのセミトランジットモール

 歩行環境の改善も期待できる。現在この道路を渡るには北端か南端にしかない横断歩道まで大回りするか、2ヶ所ある歩道橋を昇り降りする必要がある。トランジットモール化すれば、一般車両の流入がなくなるので道路の横断がしやすくなり(途中に横断歩道を新設すれば安全上なおよい)、ドルフィンポートと芝生広場とは今より短い距離で、しかも昇り降りを伴わないほぼ同一平面上の移動で結ばれることとなる。

写真3-3 歩道と軌道のみの橋。車両進入禁止の標識も見える。

写真3-3 歩道と軌道のみの橋。車両進入禁止の標識も見える。

 

 

まとめ

 今回は前編としてまず3つの事例を紹介した。いずれも国内ではあまり目にしないものだが、市電というまちの財産をより効果的に活用するアイデアとして、十分検討に値するのではないだろうか。前例や既成概念にとらわれず、「先進事例を作ろう」くらいの柔軟な姿勢でこうした事例にも目を向け、可能なものは鹿児島にもぜひ応用してほしいものである。続きは回を改めて「後編」として紹介することとしたい。

 

野口 誠(ノグチマコト)

野口 誠(ノグチマコト)

1969年鹿児島市生まれ。株式会社鹿児島総合研究所、福岡市外郭団体等を経て、現在桜島のNPO法人で観光を通じた地域活性化に従事。とくに関心があるのは交通まちづくり。

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