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時論・創論 自治

質的転換が可能か

2014.11.17
執筆者:恵原 義之(エバラヨシユキ)

 

 年金問題が大きな社会的関心事となり、マスコミで連日取り上げられていたのはもう数年前のことです。この問題、なんら解決したわけではないが、その後これを日常的に採りあげるメディアは少ない。しかし、マスメディアの怠慢をのみ論(あげつら)うことは出来ない。大多数の国民が、ひと騒ぎが過ぎるとそのことに関心を失うところに大きな問題がある。読者や視聴者が関心を示さなければ、メディアがなかなか取り上げないのも無理はない。

 「言論鹿児島」のような新しい媒体には、問題が継続しているにもかかわらず、他のメディアが取り上げようとしない社会的課題をしつこく追ってもらいたいものです。

 

■「百年安心の年金制度」失敗の原因は予測数字の過ち

 日本の抱える大きな問題である人口の減少、貧富の格差拡大、原発などの大量の廃棄物処理、空き地・空き家の増加、耕作放棄地の増加、などはすべて根っこで繋がっている事象です。年金問題について言えば、当時の総理府や厚生省、社会保険庁、その周辺の諮問委員会や学識者懇談会等の将来予測の甘さにあったことは明白です。当時の厚生大臣が「百年安心の年金制度」と自信たっぷりに語り、それがメディアで拡散されたが、事態は深刻さを増しています。

 将来予測技法は、一般に中央線をはさんで「楽観値(オプチミスティック)」と「悲観値(ペシミスチック)」の幅を設けて作られ、当然その中のどこかに収まることが前提です。その範囲から逸脱するようなことがあっては、その予測を立てた組織・機関の責任が問われなければならない。年金問題の主たる原因が予測数字の過ちにあることは論を俟たない。

 

■地方の実態を浮き彫りにする、より精緻な人口予測が必要

 人口は地域の政策決定の基本的要因の一つです。はたして、鹿児島県の将来人口、その地域別、年代別、男女別、生産人口と高齢人口、などの予測を行政の当事者、企画担当者、計画立案者たちはどれほど把握しているのであろうか。それに即応しての対策が立てられているだろうか。

 国の人口統計は国立社会保障・人口問題研究所(社人研IPSS)の調査・集計による。人口データに基づいて各地域の「持続可能性」の予測も掲出されている。それによると、2035年の鹿児島県は人口138万9千人で、お隣の沖縄県よりも少なくなっている。九州・沖縄では四番目の人口規模となり、生産人口は74万2千人との予測である。これらの数字に危機感をもって直ちに手を打ったとしても、この傾向はすぐに改まるものではない。人口政策とその結果との間には25年の時差があるとされるのであり、現実にはこれらの予測をさらに下回ることも考えられている。

 人口統計を国のみに頼ることなく、より精緻な予測値を独自に立てることはできないだろうか。市町村単位の、さらに細分化した区画単位の分析ができれば、より緻密な将来予想が立てられるのではなかろうか。県下の大学、研究機関、また行政機関の中にもそれに長じている組織、人材は多いと思う。

 現実には過疎地に住んでいる人のほうが、中央の官庁職員より地域の将来について実感していると思う。近くに住む老夫婦が亡くなり、あとは空き家となる。その所有していた田畑も山林も放置される。あたりには空き家・空き地が増え、景観が殺風景になるのみならず、治安の面からも不安が高まる。耕作放棄地や山間をイノシシ、野ネズミが荒らし、また狸や鹿が見られるようになる。これらの事象はすでに全国で始まっていることは、識者の指摘を待たずとも地元の人たちは知っているのである。

 

■机上での政策立案で混乱する地域

 総務省が「地方中枢拠点都市圏構想」なるものを出してきたのは、このような状況をみてのことだろう。これまでの「集中政策」から「分散政策」に転換を試みているのだろうか。

 人口20万人規模の、またはそれ以上の拠点都市と周辺の市町村からなる経済圏を作り、その拠点都市に対して国の財政支援を行うことで地域の定住化を図ろうとするものです。この政策がすすめられると、今度は中枢都市とその周りの市町村との格差が生じて、人心は荒廃しますます混乱をもたらすことになるのではないか。年金暮らしの高齢者たちは生活の変化についていけるだろうか。これは県単位の、地域ごとの歴史的、地理的事情に疎い中央官庁のエリートたちが頭で考えた構想なのだろう。村や町で続けられてきた祭りや年中行事、それを支えてきた地縁・血縁による共同体はもはや継続は困難となる。民謡や踊りが残ったとしても形式だけのものになるだろう。日本の伝統的地域生活を解体して、別の国造りを目指しているかのようである。

 

■「効率一辺倒」では「何かがおかしい」

 長年、国も自治体も産業界も大きなインフラ建設や全国規模のシステム作りに人と金をつぎ込んできた。「集中」と「効率第一」が優先され、その典型が原子力発電であり、高速道路網であり、店舗の大型化、流通の全国チェーン化などであったわけです。

 その結果が、地方都市の商店街の「シャッター通り」になったわけです。そこには、慣れ親しんだお店はもはやない。たしかに大型店の商品は安い。自分が作る野菜よりもお店で安く買えることを知り、耕作を止めた人も多い。ただし、何らかの事情で突然閉店する店がまま見られるのも現実です。すると「買い物難民」たちが出てきます。

 さすがに多くの人が「効率一辺倒」では「何かがおかしい」と気づき始めています。同様のことが、どの先進諸国でも起こっているのではないことも学びました。たとえばイタリアを中心にヨーロッパで定着している「スローフード」運動の実態はネット上で誰でも見ることができます。そこでは、地元で採れた素材を優先して使うことで、持続可能な土地利用と食材の提供をもたらしています。手作りパン屋は、工場で何万個も作られるものには価格では勝負できないが、地域密着で存続しています。母親たちが地元食材で調理するレストランは各地に見ることができます。日本でもまだまだ数は少ないが、限定された地域では小さいながら確実な動きが始まっています。隆盛していたチェーン店にも限界が見え始めているのは、全国の人口が減っていく状況で、食の大量生産・大量販売が見直されているからです。地域から、経済の「質的転換」を図らなければならなくなっているのです。

 

■鹿児島が「質的転換」を先導する

 幸い、鹿児島県は全国有数の農業県です。また、明治時代以来の先進技術の基盤もあります。気候も相対的に良く、地域で生きようと考える若い人にはむしろ生きやすい土地柄ではないだろうか。人口も経済も縮小を避けられない時代を予感している若い人たちの思考は「ダウンサイジングをどう生きるか」へと変わっているからです。彼ら彼女らの何人が地元に残り、あるいは他地域から移入してくるか、がこれからの地域の活力の違いとなって表れてくるでしょう。

 そのためには、「スモール・ビジネス」に取り組みやすい環境を整えることです。起業を考えている人たちに活躍の場を提供するために「シェア・オフィス」を人口3万人以上の市に設置していくことが考えられます。そこでは、デジタル環境が整い、集まって来る異業種・異分野の人たちが交流し、また「ファブ・ラボ」を導入して全国の、全世界の同様な発案をする人たちと情報交換、交流ができるようになります。再生エネルギーや素材開発は小さな組織で大きな成果をもたらす可能性があります。第一次産業から第三次産業、第六次産業までを担う人たちを全国から呼び込むことを考えたいものです。

 「生活ができればこのまま地元に住みたい」また「自然の中で子供をのびのびと育てたい」、「たとえ収入が減っても環境のよいところで暮らしたい」、という人口は確実にあります。このような若い人が定住することで、地域の空き家・空き地、それに放棄された農耕地、山林などの再利用の道が開け、それは国家的規模で見ても費用対効果の高い事業となります。

 鹿児島県は農業・畜産、漁業の盛んな県であり、また加工食品産業も独自のものがあります。ハイテクとローテクのものづくりの伝統を生かして他県に先んじて、若者定住の進む県として、魅力のある地域づくりが可能な県です。鹿児島県でできなければ、おそらく全国どこの県でも成功せず、それは日本の衰退を加速することになりかねません。

恵原 義之(エバラヨシユキ)

恵原 義之(エバラヨシユキ)

1945年鹿児島県奄美市生まれ。大阪外国語大学(現、大阪大学外国語学部)卒、早稲大学アジア太平洋センタービジネススクール修了、
1971年株式会社電通入社。営業企画局企画推進部長、SP局海外事業部長、国際事業局次長、インド事務所長等の業務に従事。現在、同社社友。
関東学院大学人間環境学部にて非常勤講師(メディア論、南アジア論、等)。法政大学沖縄文化研究所国内研究員、日本島嶼学会、奄美郷土研究会にて小論を発表している。
著書に「インド・パースベクティヴ」(ボイジャー社2008)、「カンボジア号幻影」(新風舎2005)、「砂マンダラ」(海風社2007)等。

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