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ウォーターフロント開発秘話

2014.11.4
執筆者:菅井 憲郎(スガイノリオ)

 

 県体育館の建設に絡んで、鹿児島本港区のウォーターフロント地域の在り方が注目されている。私は、その開発の初期に携わった者として、この地域の開発について、これまでに表に出ていないことを含めて、歴史の流れに埋もれてしまわないうちに、いきさつを明らかにしておくことが大事と考え、ペンを執った。

 

■「港湾施設づくり」から「ウォーターフロント開発」へ

 その一つは、この地域開発には、港湾施設づくりと街づくりのぶつかり合いがあっこと。本港区開発の当初の目的は、港湾施設を整備することにあった。それが途中で知事が交代し、新知事が街づくりを指示したことから、ウォーターフロント開発が加わった。この時代、全国各地でウォーターフロント開発が行われており、鹿児島でも青年会議所が中心となって呼びかけていた時期であった。

 この変更によって、港づくりと街づくりとの間の開発の内容や方法について、ズレを抱えることになった。

 その代表が、土地の利用計画である。この地域の海側に港湾施設があり、陸側に街づくりの用地が継ぎ足された形になっているのがその表れ。そして、芝生広場と商業施設との間にある狭い曲線の道路もその象徴である。この道路は、当初、コンテナを積んだ大型トラックやフォークリフトが通行するためとして、幅広い直線道路が計画されていた。それを市民がゆっくりと楽しめる街に変更するために、狭くしてカーブをつけた。これだけでも何か月の協議が必要であった。

 二つ目は、水族館そばの水路のこと。ここは、開発当初、港湾施設を優先していたために、全部、埋め立てられていた。ある時、現地を見ると土砂の中に石垣の頭が露出している。維新前後に海防のために造られた沖出しの堤防の護岸である。その歴史遺産を埋めてしまうのでは、もったいない。掘り返して水路を造り、水族館のイルカを泳がせたらどうか。水路脇にレストランがあれば、イルカを見ながら食事を楽しめる場となると考えた。

 もう一つ、その水路のわきに小さな池がある。あれは、親水性を考えて、潮入りの池として造られたもの。というのは、鹿児島港は潮の干満の差が大きいうえに、大型船が出入りするから、岸壁が高くなっている。その分、親水性が損なわれる。その岸壁を階段状に造れば、潮の満ち引きがあっても、水際まで近づける。私の計画では、ここに森繁久弥さんのヨットを係留してもらうつもりであった。当時、森繁さんは、自家用のヨットを持っていて、しばしば、鹿児島の友人のところに訊ねてきていた。

 

■水族館のデザインとコンセプト

 三つ目は、水族館のこと。実は、開発の方針が決まる前に、すでに県市の間で、水族館の建設が決まっていた。海に近いこの地域に水族館を造ることには、賛否両論があった。私としては、集客力を高めるために役立つと考えた。

 しかし、課題は、建物のデザインと運営のソフトである。デザインは、直線的なものではなく、美術館のような情緒のあるものにしてもらいたかった。また、運営については、アメリカの水族館の例を考えていた。つまり、展示している魚たちを水槽の中に閉じ込めてしまうのではなく、磯とか川のせせらぎを造り、そこに魚などを泳がせて、自然の生態が分るように、また、子供たちが海の生き物に触れて楽しく遊べるような水族館にしてもらいたかった。旭山動物園の水族館版である。

 四つ目は、開発主体を、民間にするか、行政にするかで、議論があったこと。私の観るところでは、行政が造った港湾施設は、どこも経営に四苦八苦している。というのは、港湾行政は、港湾機能を優先し、収益性を考えない。いや、どうすれば収益性を高めることができるかというマーケティングの視点が欠けている。最近の空港や鉄道駅では、商業機能を充実したビルづくりが進められて、賑わっているのと対照的である。今日、商店街が衰退している理由も同じで、街づくりの主体が、消費者が求めているものを把握していないのである。

 私は、経営感覚の視点から主導を主張したが、県の幹部は、鹿児島の民間は資金力が弱いという理由で、県が主体となって港湾機能重視のターミナル施設を整備してしまった。

 五つ目は、私は、この地域をディズニー・ランドのように、いつも、何か楽しいことをしていて、ワクワクする街にしようと考えた。また、桜島と錦江湾という雄大な景色を楽しんで、心を癒せる街づくりをしたかったのである。その中核として、高速船ターミナルと水族館わきの水路沿いには、サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフのような、食事や買い物を楽しめる商業施設を計画した。また、シンガポールにあるラッフルズホテルを誘致して、南国情緒のある街づくりをしようとしていた。

 地域開発は、企業経営と同じで、収益性が大事。私がホテルや商業施設の誘致に奔走しているときに聞いたことは、投資した資金に見合う利益が得られるようにすることが必要ということ。

 詳しく説明する。地域の収益性を「地域利回り」という。当時の地域利回りは、東京の銀座や新宿が5%で、福岡の天神が3%であるのに対し、鹿児島の天文館は、1~2%だと言われていた。資金の調達費用が、金利2%程度であったから、東京や福岡では開発に意欲を持つ企業は多くいるが、鹿児島では、赤字になるため、手を挙げる企業がないと言われた。逆に言えば、2%以上の利益が出るような街づくりが必要だということである。

 多くの商店街がシャッター通りと言われるほどに衰退しているのは、地域自体が収益性を失っているからである。

 人々は、毎日の暮らしの中でストレスを受けているため、癒しや感動を求めている。収益性の高い魅力ある街を造るためには、普段の生活の場にはないような非日常的な雰囲気の街、海と太陽をテーマとしたテーマパークのような街を造ることを計画したのである。

 

■集客とプロモーション

 六つ目は、NHKの誘致について。人を集めるためには、常に、音や光などを発信し、五感を揺さぶること。そのために、いつも情報を発信している放送局やコンベンション施設を集積しようと考えた。

 特にNHKには、一つの思いがあった。というのは、朝夕のニュースなどで、全国各地の風景が放送される。当時、鹿児島では、天保山橋を映していた。その光景は、ただ車が行きかうだけの、どこにでもあるような風景だった。

 全国の人が、一目で鹿児島と分かり、行ってみたいと思わせたい。そのためには、桜島や錦江湾を映してもらうこと。そのように考えて、NHKの誘致に動いた。誘致には、会議所会頭であった岩崎福三氏が動いてくれた。当時のNHK会長が鹿児島出身であったことや、ちょうど鹿児島局開局70周年という節目であったことから、その記念事業ということになり、とんとん拍子で承諾を得た。

 しかし、実務になると、技術者が難色を示した。埋立地だから、不等沈下するのではないかというのである。そこで建築の専門家の助言を受けて、事前に土盛りして地固めを急いだ。今もNHKの前を通るたびに、建物が傾いていないか気になる。

 

■自然エネルギー利用による未来型の街づくり

 七つ目は、海水発電を考えたこと。この地域に立地する施設の冷暖房と照明に使うエネルギーは、相当の量になる。従来の電力やガスに頼るのではなく、自然エネルギーを利用すれば、環境への負荷を軽減でき、しかも地域内で賄えば、未来型の街づくりができると考えた。そこで、九州電力と九州大学に相談して、海水の温度差発電を利用しようということになった。その開発研究は相当進んだが、地域開発自体が中座したので、この計画も宙に浮いてしまっている。

 また、環境対策の一環として、電気、通信、上下水道などの設備を収納する共同溝を作り、地下に埋蔵することによって、すっきりとした景観を造ることを考えた。そして、一面を芝生広場にすれば、広い緑の自由空間ができる。桜島と錦江湾の景観を生かして吉野公園のような街になれば、家族連れが楽しく遊べ、いろいろなイベントもできると考えたのである。

 

 本港区のウォーターフロントが、県民に喜ばれる街になることを願っている。

 

菅井 憲郎(スガイノリオ)

菅井 憲郎(スガイノリオ)

慶応義塾大(経済)卒。
警察庁、外務省、兵庫県、茨城県に勤務後、鹿児島県庁で青少年育成、消費者保護、国際交流、高齢者福祉、職員研修、産業振興(商工業、林業、水産業)、ウォーターフロント開発等を担当。その後、鹿児島総合研究所専務取締役、鹿児島国際大学大学院教授、鹿児島県立短期大学講師等に勤務する傍ら、運輸事業(バス、船舶等)の経営にも携わる。
著書に「自治体の国際化政策」、「ムラからの国際交流」、「虹色の鹿児島を描く」など。政策研究・論文及び講演等多数。

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