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県総合体育館建設を巡る一連の議論の検証(1)

2013.12.15
執筆者:編集スタッフ

 

 今年の5月末、県は、2020年の鹿児島国体開催に向けて建設する新しい県総合体育館を、鹿児島本港区の商業施設「ドルフィンポート」がある県有地に整備する方針を固めたとの報道がありました。その後、税金の無駄遣いに焦点を当てた県民の署名運動、県知事の支持率の大幅な低下などの様々な経緯を経て、県知事は、「体育館建設計画は時間をかけて対応を考えたい」と、全面的に見直す方針を明らかにしました。また、体育館を含め「県有施設の地域分散に努力する」という発言によって、姶良市、霧島市、伊佐市、日置市が誘致に乗り出すという事態になっています。県総合体育館を巡る様々な思惑が噴出してきており、鹿児島県の政策議論を活発化させるイシューとして大変興味深く、シリーズという形で掲載していきたいと思います。

 

■新聞報道にみる“世論”とは何だったか。

 新聞報道によりますと、ドルフィンポートとの定期借地契約を短縮して返還してもらう代わりに県が補償金を支払うことが税金の無駄遣いであるという世論、ドルフィンポートは鹿児島の観光スポットとなっているし、そもそもウォーターフロントは癒しの空間であるので大規模な建物を建てるべきではないという世論、市内には鹿児島アリーナがあり、大規模なイベントを開催できるので、県が新たに総合体育館を造る必要はないという世論、が主なものとして整理されています。

 私は、この3つが果たしてこの騒動を代表する意見だったのかという疑問を持っています。見方を換えますと、世論形成に対して最も影響力を持っている新聞が、あえて選択した意見ということができます。しかしながら、もっと他に、今回の騒動に対する本質的な意見はなかったのでしょうか。もし、他の意見がなかったとすれば、新聞報道自体が、本質的な課題をもっと掘り下げて、あるいはもっと多面的な視点で、この問題を論じるべきではなかったでしょうか。

 

■リコール運動になぜ体育館問題が

 一方、税金の無駄遣い論という一面的な論理でリコール運動に発展した一連の動きは、的はずれな印象が拭えません。上海研修問題と強引にひとつのイシューで括ったことがその理由ですが、総合体育館建設問題を税金の無駄遣いと捉えるとするならば、行政等が実施する様々な事業における補償金まで、税金の無駄遣いになってしまう危険性を含んでいます。例えば、市街地再開発事業は、市街地内の細分化された敷地の統合、共同建築物の建築などを行うことで土地の高度利用等を図る事業ですが、これまで営業してきた店子への営業補償は必要でしょうし、間接的ではありますが実質的には税金を投入しています。今回の税金無駄使い論は、市街地再開発事業における土地所有者と店子との契約が残っており、その分が補償金に上乗せされるのは無駄であると言っていることと同義です。新しい道路や公共施設の整備にも必ず補償金が発生しますが、今回のリコール運動における税金無駄使い論では、新しく何かをはじめる公共事業はすべて、税金の無駄遣いとなってしまう恐れがあります。

 

■県総合体育館建設議論にみる本質的な課題

 新聞報道やリコール運動では、県総合体育館建設の議論に関する県民の本質的な議論を導くための情報として、質・量とも不足していると感じています。

 今回の騒動は、本質的には県総合体育館の立地場所を巡る政策判断の範疇です。

 県総合体育館を建設することは、ほぼ決定事項です。その理由は、知事選のマニフェストにおいて県総合体育館が位置づけられており、そのマニフェストで知事が圧倒的な支持を得て当選したこと、県の最上位計画である総合計画に掲げられていること、与次郎地区への建設を前提とした基本構想が策定されていることなどです。行政の手続き論としては、県総合体育館の建設の有無に対して、議論の余地がないと思われます。

 その上で、当初予定していた与次郎地区の土地に関する県と南日本放送の土地交換が不調に終わってしまったことで、県は新たな立地場所を再検討することが必要となりました。その中で、知事は、近年の体育館建設の動向を踏まえ、商業施設等の複合機能を備えた大規模スポーツ施設を想定し、その集客力を、最近衰退気味の上町・天文館地域の振興に活用しようという意図を持ち、本港区への立地を提案されたと考えることができます。県総合体育館の立地場所に関する政策判断としては、十分に評価できるものです。

 

■近年の大規模スポーツ施設の立地状況

 ここで、近年の体育館建設をはじめとする大規模スポーツ施設の整備について、その動向を整理します。

 これまでの国内のスポーツ施設は、公共的な役割のもと、郊外に立地する単機能型体育施設として建設されてきました。1980年代後半から、スポーツ興行が可能な大規模施設が次々と建設されましたが、その多くが敷地面積の大きさから中心街から離れた郊外部に立地されました。スポーツ興行というビジネスの性格上、立地条件によって観客動員数や事業収入が大きく影響するにも拘わらずです。そのため、現在の国内の大規模スポーツ施設は、立地条件が収益性を下げ、施設経営を困難にしているケースが多いと思われます。

 このような中で、最近の動向としては、「さいたまアリーナ」や「ゼビオアリーナ仙台」、「アオーレ長岡」など、中心街に大規模スポーツ施設を立地する事例が増えてきています。いずれの施設も、主要駅から徒歩圏内であり、かつ公共機能や商業施設等が併設された多機能複合型の施設となっています。

 

■なぜ、街なか立地なのか

 大規模スポーツ施設の立地が、街なかへとシフトしてきた理由は、スポーツイベントやコンサート等が、域内外の人を一定空間に集客できるからで、郊外への立地より、集客ビジネスによる事業収入を見込めるからです。言い換えると、一定レベルの税金が投じられて建設された街なかの大規模スポーツ施設が、域外のビジターを集める装置となり、その結果、経済活動が促されることによって、地域が活性化するという考え方です。

 このような意味において、ウォーターフロント地区への県総合体育館の立地および商業施設などの複合機能を併設するという知事の考え方は、全面的に否定される類のものではないと考えられます。検討過程も示されないまま突然、発表されたことで、県民が戸惑ったというレベルの問題だったのではないかと感じています。

 

■県総合体育館はどこに立地すべきか

 ただし、大規模な公共事業であり、巨額な税金の投入が必要なることには変わりがないばかりか、県総合体育館の街なか立地を念頭においた場合でも、果たしてウォーターフロント地区が最適であるのかなど、県総合体育館の建設を巡る県民を巻き込んだ議論を喚起する必要性は高いと思われます。行政の手続き論からみても、与次郎地区の土地取得という前提条件が反故になったことで、基本構想の土台が崩れたといえます。再度、一からの検討が求められるのではないでしょうか。

 巨額な税金を投入した公共施設が、閑古鳥が鳴いているような施設になることだけは避けなければなりません。知事自身も、全面的に見直す方針を明らかにしていることから、今後、数回にわたって、県総合体育館の立地戦略やウォーターフロント地区の活用のあり方などについて整理していきます。

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