鹿児島ウォッチャーは「鹿児島を深堀する」ネットメディアです

鹿児島ウォッチャーは「鹿児島を深堀する」ネットメディアです

  1. HOME
  2. レポート
  3. リベラル保守の思想家、西部と西郷

時論・創論

リベラル保守の思想家、西部と西郷

2018.4.5
執筆者:萩原 誠(ハギワラマコト)

 2018年1月21日、リベラル保守思想家の重鎮、西部暹(にしべ すすむ)が78歳で亡くなった。西部は保守とは、「その国の伝統を守ること」であり、リベラルとは「異なる他者への寛容」と定義し この保守とリベラルの統合を主張した。西部の論考は非常に難しいのだがかいつまんで言うと次のようなことになる。

 「保守が守るべきその国の伝統(Tradition)とはその国の歴史が残してきた慣習の中に包含されている平衡(バランス)感覚のことである。その平衡感覚を保つための枠組みとして『他者との対話』と『歴史の知恵(経験値や良識)』が不可欠である」とする。

 西部は、「人間は間違いやすい生物なので、自己の誤りに謙虚になり、他者の意見に耳を傾けるのが保守の取るべき態度だ」ともいう。これは日本では定義が曖昧な「リベラル(他者への寛容)」そのものだ。西部が「リベラル保守思想家」と言われる所以である。

 さらに西部はアメリカもロシアも歴史から学べない“左翼”だと切り捨てる。戦後の日本の過ちはアメリカにつくのが「保守」で、ロシアにつくのが「左翼」だという構図で物事をとらえる習性から抜けきれないことと指摘する。建国当初のアメリカには欧州出身の上流階級による保守主義が存在していたが、19世紀の前半のジャクソン大統領によるジャクソニアンデモクラシー(自立と平等を理念とする草の根民主主義)が台頭して、自らをヨーロッパ(の伝統)から完全に切り離してしまったことから(真の)保守を喪失したという。

 この西部のリベラル保守の思想と同じ思想家が150年前にいた。「政府に尋問の筋、これあり」と権力への「抵抗の精神」を実践した(福沢諭吉の評価)西郷隆盛である。西郷の主張は、「西欧の先進国を妄信的に模倣するな、近代化は(日本の伝統に則って)漸進的にやるべし、官僚の権力独占(有司専制)をやめよ」という主張だった。  

 西郷のリベラル保守の思想がうかがえる「南洲翁遺訓」の核心部分を確認しよう。

 

(南洲翁遺訓第8条)「広く各国の制度を採り開明に進まんとならば、まず我が国の本体を居(す)ゑ風教を張り、然し後徐(しず)かに彼の長所を斟酌するものぞ。否らずして猥(みだ)りに彼に倣ひなば、国体は衰頽し、風教は萎靡して匡救(きょうきゅう)す可からず、終(つい)に彼の制を受くるに至らんとす。」

(西洋各国の制度を採用し、文明開化に向かうためには、その前提として「国の本体」を定める必要がある。それをしないと国家の独立は失われ、逆に(先進国に)支配されることになる)

※風教:習俗  匡救:悪いところをただす  萎靡:弱ること

 

 西部は現在の安部(一強)政権は真の保守ではないと切り捨てている。その理由として、国会での議論をないがしろにする、少数派や野党の質問に真摯に応えない、多数の論理で押し切る議会運営、を挙げる。また日本には治外法権となっている外国の軍隊の基地が国内にあり、不平等な地位協定の改善にも真剣に取り組んでいない、これではとても独立国家とは言えない。まず日本は個別自衛権でギリギリのところでまで自力で国を防衛する姿勢を示す必要がある。その議論から逃げて、「経済成長」ばかりに躍起になるばかりでは余りにも近視眼的だ。日本の伝統に則って、「日本社会の方向性」についてしっかり議論することが政権の責務なのだ、と。

 150年前の日本の大変革期に高官たちによる権力独占を西郷は痛烈に批判した。権力を独占した高官たちは高給をはみ、豪邸に住み、妾を置き、と贅の限りを尽すものが多かった。これでは戊辰戦争などで多くの人が死んでいった「維新」は何のためだったのか、と西郷は死をいとわず糾弾したのだ。いまの日本には、自己保身ばかりで恥知らずの忖度政治家と忖度官僚ばかりで、西郷という存在はない。あぁ、嘆かわしや!

萩原 誠(ハギワラマコト)

萩原 誠(ハギワラマコト)

マーケティングアドバイザー(広報、マーケティング、リスクマネジメント)
本籍地は鹿児島県いちき串木野市。京大法学部卒。
帝人株式会社(マーケティング部長、広報部長)に勤務後、日本原子学会倫理委員、山形大学地域共同センター大田リエゾンアドバイザー、佐賀大学東京オフィス参与、静岡県東京事務所広報アドバイザー、東北経済産業局東北ものづくりコリドークラスターマネージャー、鹿屋体育大学広報戦略アドバイザーなどを歴任。2007年度は、南日本新聞の客員論説委員として鹿児島県に対する多くの提言を執筆。
現在は、経営倫理実践研究センター主任研究員として活躍する傍ら、日本経営倫理学会に所属。著書に「広報力が会社を救う」(毎日新聞社)、「会社を救う広報とは何か」(彩流社)、「地域と大学」(南方新社)がある。

記事の評価、コメントの投稿には、会員登録が必要になります。

会員の方

パスワードをお忘れの方、
再設定を希望する方はこちら

会員以外の方

鹿児島ウォッチャーは無料会員制です。
会員登録をされる方はこちらから

お申込み
「ウォッチ!県議会 県議会って何だ」
稲盛経営
『稲盛経営』実践の手引き
PCサイドバナー1(中)
ページの先頭へ