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大学が主導する地方創生のかたち ―「ふるさといわて創造プロジェクト」に学ぶ

2017.10.3
執筆者:萩原 誠(ハギワラマコト)

 いま、全国で大学主導の地域創生プロジェクト(COC+事業)が進行している。一番の目的は、卒業生の地元定着である。その最先端を走るのが岩手大学と岩手県の取り組みだ。鹿児島県の地域創生にとっても大いに参考にすべき点がある。要は地域の大学が「地域にとっての知の拠点」としての機能を果たすことである。その機能のポイントは(学生に)郷土愛を抱かせることと、地域の仕事に夢と希望を持たせること、そして(地域の住民に)郷土の将来像を明示すること、である。これが(知の拠点としての)地域の大学に期待されている役割であり責任だ。

岩手県と鹿児島県の比較

 

 岩手県と鹿児島県の大学の配置の違いは岩手県が4年制大学の国立・公立・私立のバランスが取れていることで、中核となる国立岩手大学は人文社会科学部・教育学部・理工学部・農学部の4学部のみ(学生数約5000人)。農学部の前身「盛岡高等農林学校」の卒業生の一人が有名な宮沢賢治である。

小野寺純治 氏

小野寺純治 氏

 

 

 プロジェクト推進コーディネーター(岩手大学長特別補佐・特任教授)の小野寺純治氏に聞いた。

 

 

―「ふるさといわて創造プロジェクト」とネーミングした狙いは

 「文部科学省の「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」は、内閣府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の一環で実施されるものです。岩手県のまち・ひと・しごと創生総合戦略は「岩手県ふるさと振興総合戦略」とネーミングされています。このCOC+事業は、若者が生まれ育ったふるさとの創生のためのプロジェクトであることを意識して(県と)同じく「ふるさと」という一言を入れました」

 

―その目標は

 「大学と地方自治体や産業界との協働による地方創生の核となる「ひと」を岩手県内へ集積することが目的です。そのために学生にとって魅力ある就職先の創出・開拓と岩手という地域が求める人材養成が具体的な目標になります」

 

―6年半前の東北大震災と本プロジェクトの関連は

 「岩手大学は、被災地域の大学として東日本大震災津波からの復興への取組みを進めていくことが非常に大きな課題でした。そのために、被災地域の農業やものづくり産業復興、地域コミュニティの再生、こころのケア、子供たちの学習支援などに平成23年度から取り組んできました。また、地域の基幹産業であり、甚大な被害を受けた水産業、水産加工業への復興支援についても新たな学科を立ち上げて取り組んでいます」

 

―岩手大学の新入生を対象とした「被災地学修」の成果は

「被災地学修」(旧大槌町役場前)

「被災地学修」(旧大槌町役場前)

 「被災地域の復興を担う人材を育成輩出することを目的に平成25年度に大学COC事業の採択を受けて、新入生全員を対象とする『被災地学修』の取組を実施しています。被災地域が新入生に与えるインパクトはとても大きいものがあり、地域のために役立ちたいという意識は確実に向上してきていると見ております。間接的な成果ですが、岩手大学生の地域就職率は、COCが始まる前の平成21年度から24年度卒業生の平均値34%から平成28年度卒業生の地元就職率40%と着実に向上しており、被災地学修での気づきも大きいのではないか、と推察しています」

 

【運営体制について】

 

―「岩手県」の他に「盛岡市」など基礎自治体が参加している理由は

 「岩手県の地域企業は大学の研究成果を産業化する推進力が総じて脆弱です。そこで岩手大学としては政府が推進してきた『産官学連携』よりも、自治体を当事者の一つとして巻き込む『地域連携』に注力してきました。またこのプロジェクトの究極の目的が『地域イノベーション』なので、自治体を巻き込むことは必須条件です」

 

―「地域イノベーション」とは

 「従来からある地域の資源や文化、地域独自の課題などを見つめ直し、新しいアイデアと行動によりそこから新たな価値が創造される状態のことです。この状態を創り出すためには、よく言われる『よそもの、わかもの、ばかもの』が必要ですし、その活動が自発的にどんどん生まれてくるよう、地域の理解により見守り・支援する環境(=エコシステム)も必要と考えております」

 

―COC+プロジェクトについて地元の自治体はどの程度理解していますか

 「COC+事業は、大学と自治体や産業界との「協働」が必須なので、岩手県内の全市町村を対象に「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」に関する説明会を開催しました。総務省の『地方公共団体と地方大学の連携による雇用創出・若者定着促進交付要綱』などを説明し、「取り組み提案」を持って参加する自治体を募集しました。その結果、現在は岩手県(庁)のほか、県内全市(14市)と6町(全19町村)が参加しております」

 

―自治体からの「取り組み提案」にはどんなものがありましたか

 「学生の企業見学会の開催やインターンシップの受け入れ、学官連携による具体的な産業振興を提案した自治体が多いですが、起業家人材の育成、学生・研究者の地域での活動スペースの提供などの提案もありました」

「自治体も参加した協議会全体会議」 (参加自治体:岩手県、盛岡市、久慈市、宮古市、釜石市、大船渡市、陸前高田市、北上市、花巻市、奥州市、遠野市、八幡平市、滝沢市、一関市、二戸市、岩泉町、矢巾町、金ケヶ崎町、雫石町、紫波町、葛巻町)

「自治体が参加する協議会全体会議」
(参加自治体:岩手県、盛岡市、久慈市、宮古市、釜石市、大船渡市、陸前高田市、北上市、花巻市、奥州市、遠野市、八幡平市、滝沢市、一関市、二戸市、岩泉町、矢巾町、金ケヶ崎町、雫石町、紫波町、葛巻町)

 

【大学が果たす機能】

 

―「知の拠点」としての大学の機能とは

 「大学が有している「知」は、大きく3つあります。第一は専門家としての教員・研究者がストックされている場所であり、この「知」の地域への波及としては「産学連携」「産学官連携」という名で共同研究や受託研究、技術移転などを実施しています。第二は平均年齢21、22歳の専門教育を受けているしなやかで行動力に富んだ若者が集っている場所であり、学修や課外活動で地域に関わっております。三つめは、過去から積み上げてきた膨大な知識をストックしている場所であることです。本プロジェクトではこの3つの「知」をバランス良く連動させ、地域の産・官・金・民ともに地域社会を心身共に豊かにしていくことと考えております」

 

―岩手大学のCOC推進組織は?

 「岩手大学COC推進室は、平成27年のCOC+プロジェクトの採択に伴い、学長直属の組織として再編強化されました。現在はCOC事業の取組に加えてCOC+事業では事業協働機関37機関が一体となって「ふるさといわて創造プロジェクト」を円滑に推進するための事務局機能も担っております」

 

―このプロジェクトには首都圏の「協力大学」(東京海洋大学・北里大学・横浜国立大学・首都大学東京・立教大学・慶應義塾大学)が参加しています

 「このプロジェクトの立ち上げに当たって、地元の企業経営者から「企業は背景や考えの相違する多様な人材を受け入れ、彼らが切磋琢磨することにより成長が期待できる。地元学生のみでは多様性が失われてしまうのでその点も配慮されたい」との意見を頂戴いたしました。また、地方創生には『よそもの』が必要であり、そのよそものを受け入れる仕組みとして、多様なインターンシップ受け入れの環境を首都圏大学にも提供していきたい、という思いで、震災復興等でつながりのあった首都圏大学に声をかけたものです」

 

―慶応大学はSDM研究科(システム・デザイン)です

 「雇用創出のためにはイノベーション創出やアントレプレナーシップ教育が重要と考え、システムデザイン思考でイノベーティブな教育研究を展開している慶應義塾大学SDM研究科にも協力大学となっていただきました」

 

【鍵を握るコーディネーター】

 

―コーディネーターの重要性は

 「地域において広範で連続的なイノベーションが起きるためには、大学の持つ研究シーズと地域のニーズをマッチングを図る「コーディネーター」の“持続的な”存在が非常に重要です。さらに要求されるのは、産・学・官から独立したコーディネーターとしてニーズ目線で活動を可能にする「場づくり」だと考えております」

 

―これだけの関連組織を纏めるのは大変です

 「岩手県は産学官連携で全国的に知られた地域です。「岩手ネットワークシステム(INS)」を中心に産学官民の『ひと』のネットワークが30年ほど前から存在し、産学官の『組織』のネットワークである「いわて未来づくり機構」もあります。岩手大学はINSやいわて未来づくり機構の中核的存在としてこれまで活動してきております。私自身はINSの草創期から岩手県職員として関わり、2003年に岩手大学に移ってからは岩手大学の産学官連携や地域連携に関わってきました。産学官連携や地域連携の究極の目標は、地域や企業と大学がwin-winの関係になることです。私自身のこれまでの経験では、共同研究やプロジェクト研究が必ずしも地域振興までにつながっていないことを大きな課題だと考えてきました。ですから3年前に始まったCOC+プロジェクトは、これまで培ってきた産学官連携や地域連携に加え、地域振興、地方創生の中心となる「ひとの地域での活躍の場」を創ることを大きな目標にしています。そのためには、25年間の岩手県職員及び15年間の大学教員としての『人のネットワーク』を活かした活動に注力したいと考えております」

※INS:(Iwate Network System)の略。岩手県内の科学技術と産業振興を目的とする産・学・民・金の研究・交流の場で、1980年代の終わりにスタートした。現在は約50のテーマの研究会があり、県内に限らない(蓄積された)人脈が最大の強みである。

 

―推進コーディネーターとしての小野寺先生の究極の目標は

 「COC+は地方創生を担う『ひとの育成と定着』による地域活性化なので、若者や地域のものの見方を大きく変えるパラダイムシフトによるローカルイノベーションが必要です。そのためには地域のステークホルダー(利害関係者)が力を結集して取り組まなければいけません。私の役割は地域の明日を担う若者のアイデアや考えを地域のリーダーの皆さんに理解していただき、賛同を得ることと認識しております」

 

―「パラダイムシフト」とは

 「『価値観が大きく変わること』と言えばよいのでしょうか。私たちは、それまでに馴染んできた価値観が永遠に続くものとして将来を考える癖があります。例えば、戦後直後には住宅建設の材料としての杉の需要が旺盛で、山に杉を植えれば50年後の伐採時には大きく儲かるといわれ、山々に杉を植林しました。それが50年経ってみると杉は当時想定していたような価値を持ち得ずに山々に放置されており、代わって当時は価値が低いといわれていた樹木がその後に価値を見いだされて高値で取引されております。企業もそうで、高度成長期には中小企業は弱く大企業が強い、大企業がつぶれるなどは想定できませんでした。しかし、経済がグローバル化していく中で大企業は生き残りをかけた厳しい競争環境にさらされ、倒産する企業も出てきております。

 すなわち、価値観は時代とともに変わっていくもので、現在の価値観で物事を考えるのではなく、別の前提、その地域が好きだ、その仕事が好きだ、その会社が好きだ・・・など自らの原点に立ち返って物事をとらえていく必要があると思っております」

 

【筆者からの提言】

 大学が主導権を持つ地域活性化プロジェクトは鹿児島でも推進されている。食と観光の人材育成・定着を図るCOC+事業で、主管大学は鹿児島大学、ほかに県内の6つの大学・短期大学・高専が参加している。

 岩手大学のCOC+モデルに学ぶ点は以下のようなことではないか。

〇基礎自治体も参加する形にする(現状は県しか参加していない)

〇県外の大学を「協力大学」として取り込む

〇自治体は大学の力を借りた「総合計画=地域ビジョン」の再構築に取り組む

 

 

萩原 誠(ハギワラマコト)

萩原 誠(ハギワラマコト)

マーケティングアドバイザー(広報、マーケティング、リスクマネジメント)
本籍地は鹿児島県いちき串木野市。京大法学部卒。
帝人株式会社(マーケティング部長、広報部長)に勤務後、日本原子学会倫理委員、山形大学地域共同センター大田リエゾンアドバイザー、佐賀大学東京オフィス参与、静岡県東京事務所広報アドバイザー、東北経済産業局東北ものづくりコリドークラスターマネージャー、鹿屋体育大学広報戦略アドバイザーなどを歴任。2007年度は、南日本新聞の客員論説委員として鹿児島県に対する多くの提言を執筆。
現在は、経営倫理実践研究センター主任研究員として活躍する傍ら、日本経営倫理学会に所属。著書に「広報力が会社を救う」(毎日新聞社)、「会社を救う広報とは何か」(彩流社)、「地域と大学」(南方新社)がある。

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