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時論・創論 産業経済

人間こそが観光資源

2016.11.17
執筆者:恵原 義之(エバラヨシユキ)

 

■インバウンド4,000万人の目標達成にはゴールデンルート以外への観光客分散が必要 

 日本を訪問する外国人客(「インバウンド客」)は今年10月末で既に2,000万人を超えたと発表された。年間2,500万人に迫る勢いである。ここ三年は順調に増えており、政府は2020年に4,000万人を目標としているようだ。そのためにはその受け入れ態勢を整えねばならず、はたして本当にそこまで行くかどうかは疑問も残る。そこにはまだまだいくつもの越えねばならないバリアーがあることだろう。その大前提となるのは全国各地、津々浦々まで受け入れ態勢が確立できること、ではないだろうか。俗にゴールデン・ルートと呼ばれる〈東京‐富士・箱根‐京都‐大阪〉の主要コース以外へと観光客が分散する方策を取らないと目標達成は困難であろう。

 現在の東京では、ターミナル駅の周囲、銀座や浅草、原宿・渋谷といった地域で一日中外国人観光客の姿が絶えない。出身国を問わず、パンフレットや案内本よりもタブレット端末やスマートフォンを手にしている人が目立つ。通訳付きでバス移動する団体客の多くもタブレットを手にしている。筆者は駅や通りで地図画面とにらめっこしている外国人を見ると声をかけるように心がけている。彼らの関心事や要望を生の声で聴くことができるからだ。

 

■外国人客(インバウンド客)に対する鹿児島県の取組

 さて、鹿児島県はどうだろうか。県のホームページでも外国人客の県内訪問者数を増やすべく施策が発表されている。鹿児島および南九州は修学旅行の定番の訪問地であり、また県下の温泉を訪れる客も多く、無理して外国人観光客を増やす必要はない、という意見があっても不思議ではない。しかし、すでに全国の道府県、市町村でそれぞれ観光客誘致の競争が始まっている。訪日客による消費(「インバウンド消費」)の経済効果は予想以上に大きく、政府はこれを成長戦略の柱の一つとして掲げているほどである。

 では、県の受け入れ態勢にどのように変化が見られるだろうか。先日、帰省の折に自分が一外国人観光客になったつもりで鹿児島空港に降り立ってみた。まず目につく空港の行先表示パネルなどの文字表記は日本語、英語、中国語(簡字体)、韓国語(ハングル)になっている。館内アナウンスの英語は確かに自分の耳で聞いたが、中国語、韓国語も適宜なされているようである。預けた荷物を受け取り、空港内の案内所に伺うと、女性が四人対応していて、その中の一人に「鹿児島県と鹿児島市の案内パンフレットを各言語でもらえますか」と尋ねると、にこやかな対応で早速英語、中国語(大陸で使用されている簡字体)、韓国語(ハングル文字)の計六部の印刷物を持ってきてくれた。案内所の女性達が揃えば各言語の話者に対応できるそうである。

 次に、空港発市内行きのバスに乗ると、テープではあるが日本語のアナウンスに続いて英語と中国語と韓国語による説明がなされていた。また、運転手さんが間違って乗り込んできた外国人男女に、「ノーノ―、ユー・ゴー・トゥー・ナンバー・ツウ(二番線に行きなさい)」と説明し、相手も理解して二番乗り場に向かっていた。各担当部署が熱意を持って取り組んでいることが窺われた。

 ホテルについてチェックイン・カウンターで同様に「この近くの地図で英語、中国語、ハングルのものがありますか」と尋ねると、「当ホテルのパンフレットはそれぞれ用意していますが、この周辺の地図は日本語に一部英語が表記されているものしかありません」との答えだった。翌日朝、部屋に「カウンターに来たらお声をかけてください」との伝言が紙に書かれて届いていた。さっそく訪ねてみると、紙袋に入れられた三言語の市内地図と、ホテル周辺の地図が用意されていた。中国語パンフレットの文字は簡字体でなく繁字体であった。受付のどなたか一人が近くの観光案内所で受け取ってきたものと思われ、丁寧な対応には感心させられた。このホテルではここ二年、外国人客が多く宿泊するようになり、特に台湾からのお客が増えたそうである。

 

■外国人客は、「物語」につながる場所に体験に出掛け、人々と出会い、語り合いたい

 日本を訪れる外国人客が増加している背景には、何といっても査証(「ビザ」)発行条件の緩和があり、LCC(低価格航空会社)の登場、また大型クルーズ船の寄港回数の増加などが挙げられる。加えてJR、航空各社、高速バス各社などの輸送機関は個別に訪日外国人相手に期間内乗り放題などのチケットを販売していることも効果的である。この機会を各地域がそれぞれの特性を生かして活用しない手はない。

 鹿児島県で言えば、名所旧跡、特産品、保養地・リゾート地には事欠かない。活火山あり、温泉あり、景観地ありで多種多様だが、現在のネット端末を手にした観光客が関心を示すのはそれら対象にまつわる「ものがたり」であり、自分も「何かに参加している」意識である。

 この視点で鹿児島県を見つめると、外国人を引き付けるであろう磁場の一つは、希少な動植物に固有の言語・伝承文化を持つ奄美群島を挙げることができる。現在、国立公園認定、そして世界自然遺産登録への動きが進行中である。また、平成30年のNHK大河ドラマの「西郷(せご)どん」は有力な素材である。西郷さんはこれまでも県下一の有名人であり観光資源でもあったが、これからさらに飛躍してそのブームは十年は続くのではなかろうか。屋久島、種子島、また霧島、そして現在は入山できない桜島、またトカラ列島などいずれも物語性を帯びている。わが国近代産業がうぶ声を上げた仙巌園を始めとする遺構、知覧と鹿屋の特攻基地なども外国人が関心を示しそうな磁場である。武家屋敷跡は県下に数え切れないほど見出される。課題はいずれも宿泊施設が乏しいことであるが、これらの中の一つでも、外国人客が興味を持ってフェイスブック等で紹介すれば、世界中にKagoshima-Pref.の名と景観が紹介されることになる。タブレットやスマホを持っている観光客と知り合い、県下のいろいろな場所、モノ、出来事を教えてやることが観光開発につながる。富士山と五重の塔が一枚の写真に収まることで有名なになり、外国人が訪れる観光地として定着した富士吉田市の新倉富士浅間神社のような事態が、この先全国のどこで起こっても不思議でない。一つの料理が、食材が、一つの場所の物語がネット時代の観光産業の関心事となっていく。外国人客は従来型の観光名所にも増して、今の時代の「物語」につながる場所に体験に出掛け、人々と出会い、語り合いたいのだろう。焼酎やや黒酢の蔵元、大島紬の泥染め現場などを体験型の場は新たな名所の候補地である。

 

■外国人観光客の誘致に必要不可欠なのは「人間」

 遠いところからやって来る外国人を温かい目で迎え、彼らの関心事を理解してそれらに対応して場所や店や人やコトを教えるくらいの会話なら大抵の人が可能であろう。うまく喋ることなど相手は期待していないのに、英語をしゃべることに躊躇しているだけである。中国語や韓国語の習得者はまだまだ少ないようだが、相手の中にも少し日本語が理解できる人がいる。我々が外国旅行をしていても、隣に座った人たちと身振り手振りで話をして写真を撮ったりすると強く印象に残るものだ。

 外国人観光客の誘致には、地域の地理・歴史の知識と外国語の基礎力を持った人材が確かに必要だ。県を挙げて外国語教育には力を注いでもらいたい。

 それと同時に、外国語をどれだけ上手にしゃべるかではなく、ともかく話してみようとするコミュニケーション力が求められる。道に迷って立ち往生している外国人に話しかけて地元を紹介する人、外国人の現場体験の相手を務める人、こういう人たちがその土地の有力な観光資源となりうる。

恵原 義之(エバラヨシユキ)

恵原 義之(エバラヨシユキ)

1945年鹿児島県奄美市生まれ。大阪外国語大学(現、大阪大学外国語学部)卒、早稲大学アジア太平洋センタービジネススクール修了、
1971年株式会社電通入社。営業企画局企画推進部長、SP局海外事業部長、国際事業局次長、インド事務所長等の業務に従事。現在、同社社友。
関東学院大学人間環境学部にて非常勤講師(メディア論、南アジア論、等)。法政大学沖縄文化研究所国内研究員、日本島嶼学会、奄美郷土研究会にて小論を発表している。
著書に「インド・パースベクティヴ」(ボイジャー社2008)、「カンボジア号幻影」(新風舎2005)、「砂マンダラ」(海風社2007)等。

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